『AD/HD, LD, 高機能自閉症 軽度発達障害の臨床 -レッテル貼りで終わらせない、
よき成長のための診療・子育てからはじめる支援-』
横山浩之 著 診断と治療社 A5判 2005年 本体4600円
という長いタイトルの本は、著者の序文によれば専門書ではなく、
いわゆる軽度発達障害を診ていけるようになりたいと考えている
学生や小児科研修医を対象にした入門書、とのこと。
ならば、医学志望者でなくてもわかる内容だろう。
今や Barkley のあの厚ぼったい ADHD の Handbook を原書で読んでしまう親も
いる時代、骨のある解説書がほしいと思っている親や教師の要求に
こたえられる本だろうか。
1点だけコメントすれば--
この本に、「DBDマーチに対して、何ができるか」という1節がある。
親たちにとって何のご利益もないどころか迷惑このうえないDBDマーチの概念が
「臨床上有用である」と著者は認めているのだが、どこがどう有用なのだろう。
DBDとは、DSMでADHDの上位カテゴリーである「注意欠陥および破壊的行動障害」の
破壊的行動障害 Disruptive Behavior Disorders のことであり、
このカテゴリーにADHDと反抗挑戦性障害(ODD)と行為障害(CD)が含まれている。
ADHDを起点として、加齢とともにODD → CDとDBD内の診断名が移り変わっていって、
最後に反社会性人格障害にいたる、そういう一群の子どもたちがいて、
この変遷をDBDマーチと呼んでおきたい、と言った医者がいる
(齊藤万比古,原田謙:反抗挑戦性障害.精神科治療学,14; 153-159, 1999.)。
DBDマーチを言った人たちはODD段階での治療の重要性を強調したかったようだが、
この印象的なネーミングはひとり歩きを始めたようで、
セミナーや講演会の講師をつとめたり本を書くような人たちが、
あちらこちらでこのことばを使うようになった。
それもしばしば、どんな治療教育をおこなっても自動的にこのマーチは進行する、
というニュアンスで。
これが、ADHDは行為障害や非行、ひいては犯罪に移行する障害、
という誤解と偏見を世間に広めるのに一役買ったのではないか。
2000年6月15日配信の「毎日教育メール」第74号に
「荒れる子供たちの『注意欠陥障害』に社会的認識と対応を」と題して、
自閉症の子を持つという医師の投書が載り、
それに対してADHDの子どもを持つ親たちから反論が寄せられる、
という、ちょっとした“騒動”があった。
この医師の投書にADHDの子どもを持つ親がとくに反発したのは、次の2点。
・ADHDの子どもの中には「どう対応しても」行為障害に移行する者がいる。
・「子供の犯罪のほとんどは注意欠陥障害が引き起こしてい」るにもかかわらず
それが社会で話題にならないのは、親の会がマスコミに圧力をかけているからだ。
どちらも事実ではない(検証しようがない)けれど、
初めのほうの記載が、DBDマーチと関係している。
投書の主の医師がDBDマーチを直接念頭に置いて書いたのかどうかはわからないが、
その書きぶりはDBDマーチ(の曲解)そのものだ。
DBDマーチはアレルギーマーチの概念にならって命名した、とのことだが、
このアナロジーが科学的だとはとても思えない。
発達障害は、専門家にとっては言わば“稼業”だから、
気の利いたネーミングの1つや2つ創出しないことには商売がやりにくいのだろうが、
DBDマーチは説明として不十分なうえに、
教師や医師といった人たちに中途半端に多用されることになったマイナスが大きい。
思いつきでモノを言わないでもらいたいものだ。
そもそも、(アメリカでの)子どもたちの社会的に困った行動を
その度合いに応じていくつかの診断名を作って分類し、ひとくくりにしたのが
「注意欠陥および破壊的行動障害」なのだから、
DBDマーチなんてトートロジーもいいところである。
実際、冒頭に紹介した本では、著者自身がDBDとDBDマーチを混同していることが、
63ページの図23から見てとれる。
早期発見と早期対応が大切なのは、何もADHDにかぎらず、
すべての発達障害の臨床に言えることではないのか。
この本の著者は、BarkleyはDSMの診断基準を作ったメンバーのトップだとか、
ADHDを判断するには知能検査しかない、などとむちゃくちゃなことを言っている
(「学校運営研究」2002年12月号 明治図書出版)学校の先生たちの集まり(TOSS)と
つながりの深い人のようだが、だいじょうぶ?
◆教育の現場で使われる「DBDマーチ」
たとえば、岩手県立総合教育センター特別支援教育室が作った
「平成16年度特殊学級担当教員研修講座I講義・演習 軽度発達障害児の理解と指導」
には、もっと拡大されたかたちでDBDマーチが紹介されている(p.9-10)。
◆専門家が専門家向けにも使う「DBDマーチ」
たとえばADHD の合併症の記述で、
「反抗挑戦性障害や行為障害といった"DBDマーチ"を示す破壊的行動障害群」と記載
(田中康雄:注意欠陥/多動性障害の現状と支援.精神保健研究,17; 25-36, 2004.)。
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